嵐も白き
桜はもう終わりですね。
み吉野の高嶺の桜散りにけり嵐も白き春のあけぼの
──吉野山の高嶺の桜はすっかり散ったのだろう。春の夜明け前、山風が真っ白なのだから。
新古今集にある後鳥羽院の絶唱です。目の前の白い嵐(=山風)から、吉野山の落花を想像しているのです。夜明け前の夢現(ゆめうつつ)の目には、この白い嵐が本物なのか心象なのか、区別がつきません。花の嵐には音もありません。
後鳥羽院は承久の乱で破れ、隠岐に流されました。「無音の白い嵐」は静かに乱を企てる院の姿なのです。やばい歌ですよ。
え、古典の話、突然すぎますか?
実は、私の中で新古今集と源氏物語は日本語の文学の最高峰なのです。新古今の歌人では後鳥羽院と藤原定家が双璧であり、このふたりに紫式部を加えた三人が私にとって日本語文学最高のアーティストなのです。
明治通り沿い、恵比寿から広尾にかけて、見事な桜並木ですね。それが今朝、白い嵐でした。私の思いは一気に中世へ飛びました。
私はよく、「人の話を聞いていない」と怒られますが、1000年も違うところへ行っているので、仕方ありません (^^)